
1989年4月21日発売
通算14枚目
(スタジオアルバムとして11作目)
写真はCD版(32MD-1048)
収 録 曲
1. “It's For You”
MUSIC : PAT METHENY & LYLE MAYS
youtu.be
PIANO : AKIKO YANO
GUITAR : PAT METHENY
DRUMS & PERCUSSION : PETER ERSKINE
BASS : CHARLIE HADEN
《memo》
一年間の休業からの復帰作、
その幕開けはPat Metheny & Lyle Maysのアルバム『As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls』('81)からのカバー。
二年後に発表される傑作『LOVE LIFE』('91)は、このときのPatとの出会いとセッションが契機となっているのではないだろうか。
クレジットの『Thanks to; 』でのPatへのメッセージはそれを予感させるものだ。
“私の音楽を気に入ってくれたこと、私のためにたくさん努力してくれたこと、「It's For You」セッションで方向性を示してくれたことにありがとう”
2. しんぱいなうんどうかい (Field Day)
WORDS : SHIGESATO ITOI
MUSIC : AKIKO YANO
youtu.be
SYNTHESIZER : RYUICHI SAKAMOTO + AKIKO YANO
DRUMS : DAVID PALMER
GUITAR : KENJI OMURA
《memo》
はい。おなじみ糸井&矢野コンビですね。
てことは傑作です。そこはまぎれもない。
んが、この曲のみエレキベースの代用としてシンセを使っている点が気になってしまう。
悪くいえばエレキベーシストぶったフレーズ。
注意して聞かなければ普通に愉しめるのだけれど。
これだけ贅沢に有名ベーシストを調達できる環境にありながら、それはどうだろうと思ってしまうのだな。あたしなんかは。
アンソニー・ジャクソンがおるじゃないかと。
3. みのりのあきですよ (Autumn Song)
WORDS : SHIGESATO ITOI
MUSIC : AKIKO YANO
youtu.be
SYNTHESIZER : RYUICHI SAKAMOTO + AKIKO YANO
PIANO : AKIKO YANO
《memo》
糸井&矢野組が続きます。
そしてやはり傑作を生んでしまっておるのです。
なんといっても言葉遊びがかわいい。
ひんやりとした空気感もオツで、
そしてこの曲のみご夫婦での録音だ。
ベースはシンセベースならではの使い方なので、前曲のように “ぶって” いない。
打楽器系のシーケンスも時計仕掛けのからくり人形のよう。
非常に気持ちがいい。
アコギのような弦楽器の音はサンプリングだろうか。
4. 悩む人 (A Worried Girl)
WORDS & MUSIC : AKIKO YANO
youtu.be
SYNTHESIZER : RYUICHI SAKAMOTO + AKIKO YANO
DRUMS : DAVID PALMER
ELECTRIC BASS : ANTHONY JACKSON
PIANO : AKIKO YANO
《memo》
これも大好きだ。
歌詞もいい。
「ここに悩む人」は「 “孤高” に悩む人」でもあるのだろう。
特に前半部の透明感が愛しい。
デヴィッド・パーマーにこういう曲のドラムをまかせるところも面白いと思った。
曲想からすれば後述するジャズ班にまかせそうなものなのだけれど。
後半の展開部からの躍動にデビッパが必要だったのだと思う。
それからシンセのオーケストレーション。
これにはもう舌を巻くしかないわけで。ピアノとの相性も加減も絶品ですわな。随所に「あ。キョージュだ」と嬉しくなった。
そしてこの頃、矢野&坂本の作品ではマリンバの音がよく使われる。
ハナマルキのCMなど記憶に残る作品が多い。
この曲でもメロディの背後にマリンバがぴったりと付き添いつつもしっかりと彩っている。
5. ほんとだね。(It Will Take A Long Time)
WORDS & MUSIC : AKIKO YANO
youtu.be
PIANO & SYNTHESIZER : AKIKO YANO
DRUMS : PETER ERSKINE
BASS : CHARLIE HADEN
TRUMPET : WALLACE RONEY
《memo》
よおーし、今度はジャズ班でいくからね、といった塩梅の出だしだ。
よくもまあこんな摩訶不思議な曲をつくれるものだと我にかえることもあるのだけれど、矢野顕子ばかり聴いているから慣らされてしまうのだろうか。
奇をてらうような素振りも無いのに、ユニーク。
いや、難しいことを簡単そうに披露してしまうのが才能というものなのだろうけれど。
この曲も素朴に聴こえて、あとで鼻歌でなぞろうとするとなかなかに難解なのでお試しあれ。
坂本龍一いわく「身軽な怪獣」とは云い得て妙。
飄々とジャンルを飛び越えつつ、しかも何をやっても矢野顕子だ。
WALLACE RONEYのトランペットが映える。
6. How Beautiful
WORDS : TAKASHI NAKAHATA*1
MUSIC : AKIKO YANO
youtu.be
PIANO : AKIKO YANO
GUITAR : PAT METHENY
CLARINET : KAEDE AKIYAMA
《memo》
当時SONYのTVCMに使われていた。ビデオデッキだったろうか。
作詞がコピーライターの仲畑貴志なので、もともとCM用に作られたのかもしれない。
小品ながら鮮烈な印象を残した。
クラリネットは秋山かえで。
よくぞクラリネットを選んだ、と思ふ。
クラリネット以外は考えられない。完璧。
7. かぜのひきかた (How To Catch Cold)
WORDS : YUKIO TSUJI*2
MUSIC : AKIKO YANO
youtu.be
PIANO : AKIKO YANO
DRUMS : PETER ERSKINE
BASS : CHARLIE HADEN
SYNTHESIZER : AKIKO YANO + RYUICHI SAKAMOTO*3
FRENCH HORN : JOHN CLARK
《memo》
静寂とリム・ショット。
詩集をよく読むのだろう。
矢野顕子が取り上げたことで知った詩人は多い。
たとえばこの人もそう。
辻征夫。
全編ひらがな。
そして子どもにもわかるようなやさしいことばのつながりだ。
“ すると ごらん
さびしさとかなしさがいっしゅんに
さようして
こころぼそい
ひとのにくたいは
すでにたかいねつをはっしている
りっぱに きちんと
かぜをひいたのである”
CHARLIE HADENによるベースリフが耳に残る。
ここにフレンチホルンという組み合わせの妙。これも完璧。
ピアノとの掛け合い。その呼吸も素晴らしい。
8. Hard Times, Come Again No More
WORDS & MUSIC : STEPHEN FOSTER
youtu.be
PIANO : AKIKO YANO
BASS : CHARLIE HADEN
FRENCH HORN : JOHN CLARK
《memo》
スティーブン・フォスターによる名曲。
クレジットの『Thanks to; 』によれば、かのVan Dyke Parksに紹介されたという。ただ「 introducing me to the songs of Stephen Foster;」という書き方からするとこの曲を、というよりはフォスター作品全般を紹介されたということなのだろうか。
後年 (たしか'93あたり) にもテレビでGil Goldsteinのアコーディオンに矢野のピアノという組み合わせでの演奏が放映されたことがある。
歌詞を噛みしめれば、間奏のフレンチ・ホルンで目頭が熱くなる。
www.worldfolksong.com
ちなみに坂本龍一は1989年11月発売『Beauty』のなかで同じS.フォスターの「Romance」をカバーしている。
9. Watching You
WORDS : SHIGESATO ITOI & AKIKO YANO
MUSIC : AKIKO YANO
youtu.be
PIANO : AKIKO YANO
GUITAR : PAT METHENY
DRUMS : PETER ERSKINE
BASS : CHARLIE HADEN
《memo》
糸井&矢野組。
この頃、矢野の子どもたちはそれぞれいくつくらいだったのだろう。
幼な子への愛に満ちた一曲。
Patのギターソロがやさしく、素晴らしい。
10. Little Girl, Giant Heart
MUSIC : AKIKO YANO & HARUO KUBOTA
youtu.be
SYNTHESIZER : RYUICHI SAKAMOTO + AKIKO YANO
DRUMS : DAVID PALMER
ELECTRIC BASS : ANTHONY JACKSON
TRUMPET : WALLACE RONEY
PIANO : AKIKO YANO
BACKGROUND VOCALS : YUTAKA FUKUOKA & AKIKO YANO
《memo》
アルバムの最後を飾るこのタイトル。
前作で組んだ窪田晴男との共作ふたたびである。
前作に収録されなかったのか、このアルバムのために新たに書かれたのかは不明だけれど。
ドラマーはおいしいよね。これは叩き甲斐のある曲だ。
案の定デビッパの突進力が爽快。気持ちいいー。
そしてジャズ班でも活躍したWALLACE RONEYのTRUMPETがこのポップス班でも良い働きをみせるというのがキモなのかもしれない。
では文末の『雑 想』でまたお会いしましょう。

NOTES
PRODUCED BY AKIKO YANO
CO-PRODUCED BY RYUICHI SAKAMOTO
ARRANGED BY AKIKO YANO AND RYUICHI SAKAMOTO
RECORDED AT VICTOR AOYAMA STUDIO, STUDIO TAKE ONE, TOKYO & POWER STATION, NEW YORK (NOV, '88 - FEB, '89)
ENGINEERED BY KINJI YOSHINO, HIDEAKI OKUHARA & ALEC HEAD
TAPE OPERATORS : MASAYUKI NAKAHARA, DAN GELLERT
MIXED AT VICTOR AOYAMA STUDIO
BY ALEC HEAD (M1, 5, 6, 7, 8, 9)
BY RYUICHI SAKAMOTO WITH HIDEAKI OKUHARA (M2, 3, 4 ,10)
EDITED AT ONKIO HAUS
BY YUKA MATSUMOTO
MASTERED AT STERLING SOUND
BY GREG CALBI
COMPUTER & SYNTHESIZER PROGRAMMED
BY HIROAKI SUGAWARA & MASAYA NISHIDA
RECORDING IN YEW YORK CORDINATED
BY YOSHIO MAKI
ART DIRECTION : HAJIME TACHIBANA
PHOTO : SHUNSUKE KUBOKI
HAIR & MAKE UP : MITSURU KOHNO
COSTUME : MIYUKI MORI
DESIGN : MITSUNOBU MURAKAMI
A+R CORDINATION : TAKASHI SORA
MANAGEMENT : DONBAY NAGATA
EXECUTIVE PRODUCER : HIROSHI OKURA
Thanks to :
all the musicians who played on this record;
Charlie Haden, without whose kindness and generosity
these sessions would not have been possible;
Ruth for her warm smile;
Yoshino-san for his unbelievable patience;
Maki-kun for working so painstakingly;
Alec Head for his stamina;
Donbay for being so amazingly organized, for giving his best all time, and for being a genius at finding good things to eat;
Okuhara-kun for his enthusiasm and patience throughout;
Van Dyke Parks for introducing me to the songs of Stephen Foster;
Pat Metheny, for liking my music, for making so much effort on my behalf, and for showing me which way to go on the “It's For You” session.
Aki , I wish we could have a CD player even in Paradise !
ja.wikipedia.org
高橋幸宏はアルバム『EGO』のなかに彼への追悼曲を残している。
坂本龍一もアルバムのなかで追悼メッセージを残しており、たしかこの頃に月刊角川で連載していた村上龍との往復書簡でも、Akiの急逝を惜しむ言葉を残している。
とくにこれまでAkiにまかせっきりにしていた諸々の仕事を米国ではすべて自分ひとりでやらなくてはならなくなったと。
失ってあらためて気づいたその功績と人物を偲んでいた。
Special thanks to my family - Hoota, Miu, and Ryuichi for their constant encouragement, and most of all to Jehovah for giving me the ability to make music.
雑 想
タイトルが示すように一年間の育児休暇を経ての復帰作だ。
一般に、本作からジャズ的なアプローチに本腰を入れたなどと評される。
前触れはあった。
スティーヴ・ガッド、アンソニー・ジャクソンらジャズ・フュージョン界の達人たちと組んだ『峠のわが家』がその代表例だろう。
ただ、思うに、それはいわゆるジャズもしくはフュージョン界隈のミュージシャンとされる面々と組んだことを指しているに過ぎないわけで。
たとえば原曲を遊ぶことで曲の本質をあらわにする姿勢をジャズ的とするならばだ、デビュー当時から矢野はずっとそれを貫いてきたではなかったかと。
民謡でも童謡でも、おさがりをおさがり以上に
「わたしのっ!」
とすべて見違えるようなおろしたてに仕立て直してきたではなかったか。
ちなみに本アルバムでの参加メンバーも『峠のわが家』同様にいわゆるジャンル的な班分けができると思う。
いわゆる『ジャズ』班といわゆる『ポップス』班とにである*4。
ジャズ班は、
Charlie Haiden (Bass), Peter Erskine (Drums)を主軸に、
+ Pat Metheny (guitar), Wallace Roney (Trumpet)*5, Kaede Akiyama (Clarinet), John Clark (French Horn), といった布陣。=M1, 5, 6, 7, 8, 9,
ポップス班は、
Anthony Jackson (Bass), David Palmer (Drums)を土台に、
+ Kenji Omura (guitar)といった面々。=M2, 4, 10
A. Jacksonは前々作『峠のわが家』でSteve Gaddと素晴らしいコンビネーションを聴かせた。つまりジャズ・フュージョン的アプローチも得意とするところ。けれどこのアルバムで求められた役割はこの班分け的な位置ではないだろうかと。
以上のように本作は二班制で制作されていると見なすことができる。
その点、個性的な三人のドラマーを主軸に色分けした『峠のわが家』と構図としては似ているようにも思える。
しかしなぜだろう『峠の』のような色分けのコントラストを感じないのは。
不思議だ。
音の録り方にもあるだろう。
しかしそれにしても二班制ながら本作は統一感が増し増しなのであーる。
『峠のわが家』との大きな違いはそこだ。
つけ加えれば、
双方の班がフュージョン的な要素を共有しているのも理由のひとつではある。
そしてもうひとつ、
それは前作『GRANOLA』との大きな違いだ。
ドラムビートが必要な曲調において、ベーシスト不在、もしくはドラマー不在にならないという点。
つまりもとからドラムビートを必要としないM3『みのりのあきです』、M6『How Beautiful』、M8『Hard Times, Come Again No More』は除く。
例外が『しんぱいなうんどうかい』で、この曲はベーシスト不在でベースはシンセだとのこと。
ただベーシストぶっているのが気になりはする。エレキベースの代用としてのシンセだ。
前作については特に打ち込みのドラムが浮いているとあたしゃ指摘した。
とくに時代をへた現在において聴くならば、とりわけ音色についてそれが際立っており。
ぶっちゃけて云えば古臭さを感じてしまった次第で。
けれど本作ではベースの音はベーシストが、ドラムはドラマーが奏でているのであーる。
くわえてポップス班の演奏について。
たとえば『ラーメンたべたい』や『春咲小紅』のようにシングル曲として成立するカッチリとしたポップス形式には嵌め込んでいないのではないのか。
ひょっとするとこのアルバムに地味な印象を抱く人たちは、そのあたりにひっかかっているのかもしれない。要は、
悪くいえば華がない。
よく云えば “大人”。
思うに、
先に触れた『ジャズ的なアプローチ』という評し方は、いわゆる「ポップスからの離脱」の意味あいが込められていたのではなかろうか。
けれどいま、あたしゃ聴き返して確信したのであーる。
これが『成熟』なのだと。
☾☀闇生☆☽
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